【解釈改憲は国民権利の剥奪だ】
私は解釈改憲を拡げていくことは、国民の権利を剥奪することだと考えている。憲法はもともと西洋では、君主が国民から税を搾取するときに、それに抵抗するためにつくられたものである。したがって国民の権利を守ることが大事である。
もう一つは、グローバリゼーションという問題を忘れてはならない。ヨーロッパはいまEUが十五カ国、あと二年でさらに十カ国加盟する。二十五の国家による共同体ができて、新しいヨーロッパ憲法をそこでつくることが、いま議論されている。
自由貿易協定(FTA)が拡がっていったらどうなるのか。FTAという地域を、国境を越えた形態の連合体としても、加盟国の憲法にどういう影響を与えるかということを議論しておかなければならない。例えばいま日本の主張は、中国、韓国、それからASEAN十カ国を入れた経済圏をつくろうというものである。アメリカは北米大陸から南米へ自由貿易協定を拡げていこうとしている。ヨーロッパはEUを形成する。そうなってきたときの国家の主権はどうなるのか。ヨーロッパはユーロを導入し、国家主権である通貨を放棄した。
【情報社会の新たな問題】
もう一つ、インターネットの発達によって、個人のプライバシーはどうなっていくのかという問題が出てくる。フィンランドは憲法改正をして、国民は政府のあらゆるデータバンクにアクセスすることができるということを、憲法で規定している。そうなると、情報化社会におけるプライバシーの保護は、きわめて大きな問題になる。いま住民基本台帳法が出ているが、これに対抗して、国民の権利、プライバシーを守ることをちゃんとやらないとうまく行かないだろうと私どもは考えている。
さらに生命倫理をどう考えるか。ゲノムの開発がどのように人間社会を変えていくかということである。いままで憲法論議というのは、憲法学者を中心にやってきたが、私は自然科学分野の意見を聞くべきだと考え、東京大学名誉教授の村上陽一郎先生をまずお呼びして、科学技術の歴史から見た日本の社会の変貌、あるいは人間社会の変貌をどうするかという問題の議論をしたし、東北大学の前総長、西澤潤一先生にもお越しいただいた。
それからインターネット会社の孫正義さんからも聞いてみた。韓国は全部ソケットを差し込んだらそこでインターネットで繋がっているということで、自然科学分野の変化が各国とも国の形に大きく影響を与えている。こういったことを議論している。
ご案内のように、ドイツの憲法では国民に徴兵の義務を課している。しかし一方、青年たちに軍部に服することを拒否する権利を認めている。軍人になることを拒否したものは、兵役に従事する期間にほぼ匹敵する期間、社会奉仕をしなければならないという規定である。中国、韓国ともに、憲法で国を防衛する義務を国民に課している。こういったことについても議論することが必要ではないか。
【政党と憲法の関係】
もう一つは、政治改革、特に政党と憲法の関係を議論していくことが必要ではないかと思っている。
昭和三十二年に作られた内閣の憲法調査会の報告書は、七年間の議論がなされた。その報告書は改憲論と護憲論が併記され、結果は出なかった。そのときに法制のために書かれた文章が十項目ある。まずいかなる憲法であるべきか。そして非常事態に対して日本はどうあるべきか。憲法はどうあるべきか。政党について、憲法はどうあるべきか。こういうふうにいろいろな項目にわたって十項目挙げている。現在にも適用できる接点もある。あと一年半ばかりの間に大方整理をして、最終報告を出して、国民の皆さん方に提起したいと思っている。
問題は、実は憲法を改正できないように仕掛けがされてきた点だと思う。
憲法を改正するときには、国会議員の三分の二の賛成と国民投票が必要だ。憲法九六条には国民投票によるということが書かれているが、それを施行する法律がないのである。したがって国民投票法という法律の制定が必要になる。これがない限り、憲法改正はできない。こういうことを、来年ぐらいには解決していかなければならない。これは国会の二分の一以上の賛成でできるから、さほど困難ではない。
【首相公選制と女帝】
最後に改めて申し上げたいことは、首相公選制についてである。
問題の一つは、天皇の地位と国民が選んだ首相の立場について、外国から来た人が見た場合にどういう印象を与えるのか、どちらを元首をどうするかということが問題になる。
もう一つは、国民が直接選挙によって選んだ首相が政策を失敗して、国がマイナスの方向に大きく動きだしたときに、国民が選んだ国会が不信任を決議できるのか。これはできない。改めて主権者である国民の投票を仰がなければならない。クリントンがあれだけスキャンダルを起こしても、アメリカ上下院は大統領を罷免できなかった。なぜなら国民による直接選挙で選ばれた大統領だからである。
こういった点もこれから検討していかなければならないだろう。
女帝をどうするかという問題も重要である。
皇室典範をご覧になっても分かるように、直系の男子が皇位を継承されることになっている。いまの皇太子ご夫妻に男のお子さんがお生まれにならなかった場合、女帝ということを考えていかなければならない。天皇になられる方は中学に入った頃から帝王学を学ばれるが、これについてどうするのかといったこともわれわれは議論している。
日本の歴史で、女帝は十一代、九人おられる。日本の歴史の中で女帝もおられたことは間違いない。それでは、もしいまの時代に女帝になられる方がでてきた場合、その方が適齢期になって結婚される場合、どこから配偶者を探すのかという問題が生じる。配偶者は選び方が非常に難しい。そうなってくると、その方をどうお呼びするか。男性だから皇后陛下とはお呼びできない。できるだけ皇室に近い方から選んだほうがいいという意見も出た。
マッカーサーが占領中に十二あった宮家を三つにしたため、いまの皇族は非常に血が濃い。その点も議論に出ている。
憲法問題というのは、国の統治機構に関するものも含めて難しい問題だが、もっと国民に密着したテーマで議論をしていかなければならないと思う。 |